始めのシーンが終わりのシーンに完全につながっている構成に引き込まれました。
冒頭の主人公ユーリ・オルロフ台詞
「残りの課題は…1人1丁の世界」
ラストシーン、ユーリーの人生の方向性は“武器と切り離せない”と完全に決まっていました。
この境地に達するまでに失ったものの中で一番大きかったのは何だったでしょう?
天職と言い切った職業との出会いは図らずも遭遇した近所のレストランでの小さな銃撃戦でした。
正当防衛に使われた銃弾を拾い上げひたすら見つめるユーリーはまだ自分の才能に気づいていたわけではありませんでした。ただ何か強い気づきがあったに違いありません。
その後弟ヴィタリー・オルロフ( ジャレッド・レト)と共にニューヨークの家族経営のレストランでの日常と完全に決別します。確実に手を汚しながら武器ビジネスは雪だるま式に成功し富も膨らんで行きます。
妻エヴァが原動力
ビジネスの最初の原動力は妻になる同郷ウクライナの美人モデルエヴァ・フォンテーン(ブリジット・モイナハン)の存在でした。10歳の頃の片思いを克服するのがなり上がりへのモチベーションを支えていました。
そしてこの夢は早い段階で実現します。息子一人をもうけ家庭生活も表向きでした。ただウクライナで強盗事件に巻き込まれ銃で両親を亡くしたエヴァには自分の正体は絶対に知られてはなりませんでした。
弟ヴィタリーの本性
弟ヴィタリーは南米での取り引きをきっかけにコカイン中毒者になり兄弟の人生の明暗は完全に別れました。こうなったのは弟には兄のような才能がなかったからです。
最初から兄とは全く違うマインドを持って行動を共にしていたことが後々明らかになります。
やっと中毒から更生し再び家族経営のレストランの日常に喜びを見出そうとしていたヴィタリーを引き返せないアフリカの乾いた砂の中に誘ったのは兄でした。
警察ジャック・バレンタイン
何も知らず弟と最後のビジネス旅行に出かけた後、ニューヨークのアジトが終に突き止められます。意外な暗証番号、発見者の驚きはそれだけではありませんでした。
思いがけないミスで空港で証拠を捕まれ逮捕されるクライマックス。即座に釈放されることをユーリー自身がよくよく分かっていました。
長年証拠をつかめず敗北の追跡を続けて来た警察ジャック・バレンタイン( イーサン・ホーク)は妻子と両親、弟、全てを失ったユーリーに、清々しく暫くの法廷から独房の往復の日々を予言します。
ところがユーリーは無敵のフリーランス、天職を奪う事は不可能であることを知ることになるのです。
ビジネスパートナー・リベリア大統領
商品と顧客を知り尽くしビジネスに繋げるユーリーの非凡なる才能は誰しもに崇められるに値するものです。ところが商品が武器であるがゆえにそれが汚れたものとみなされてしまうのです。
妻に忌み嫌われ家庭崩壊寸前さすがに才能を手放そうとしたユーリーでしたが、それを許さなかったのがリベリアの大統領アンドレイ・バプティストでした。
ユーリーのアフリカでのビジネスの成功には彼の存在は欠かせないものでした。しかし彼とのビジネスはユーリーにとって決して心地よいものではありませんでした。
特に商品の引き金を自ら引き人の命を奪うという最もやりたくないことを仕向けられたのは耐えがたいことでした。
武器を人殺しの道具として認めない乾いたマインドがユーリーの非凡なる才能の根底にあるのです。
作品は、冷戦の集結をまたいだ時代、このマインドを持ち合わせた複数のフリーランスのリアルをドラマチックにまとめたノンフィクションです。
世界平和をアブノーマルな角度から考えさせられました。
初体験の不思議な飲み物を飲み干した後に感じるような後味、
ラストシーンに入り込み「こういう生き方もありかな?」とユーリーと共に無感情に無数の弾丸の上に立っている自分の心にゾワッとしました。