【HSP】ネガティブ思考に感謝する日常

気楽に賢く、正しく生きて行きたいHSPでネガティブな日常を綴ります。

【映画】セッション・登場人物が語るストーリー(ネタバレあり)

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主人公の父親が語る(起)

私の名前はジム・ニーマン。物書きをしながら高校教師をしている。妻とは離婚し大学生の息子、アンドリューと2人暮らしだ。

 

一番の楽しみは2人で映画を見に行くことだ。彼女はもちろん一緒に映画に行く友達もいないらしく、この習慣は未だ続いている。

 

息子の大学はアメリカ名門のシェイファー音楽学院だ。音楽の才能は遺伝と言うのが本当だとしたら彼は残念ながらそれには該当しない。

 

楽器はドラムで好きを極めたと言う所だ。極めたなどとはまだ言えないのだろうが、有名教師のテレンス・フレッチャーに演奏を認められて彼のバンドに昇級したというから驚きだ。

 

映画館のポップコーン売り場で気になっている様子だった女の子(ニコル)に声をかけたようだから自信がついたに違いない。こっちとしては、そっちの方を頑張って欲しいところだ。

 

ドラムだけが友達のような大学生活は哀れに思えてならない。自分にも全く責任がないとは言えないのだが彼の容姿はぱっとしない。同年代でラグビーをやっている甥がいるが、親戚で集まるとどうしてもイケメンの彼に注目が集まってしまう。

 

見た目の問題だけじゃないが一緒に並ぶと申し訳ない気持ちにさえなる。ましてやスポーツと音楽どちらも生業にするのは簡単じゃない分野と言えるが、全員が甥を応援してしまいたくなるようだ。

 

主人公が語る(承)

「ついに俺の時代が来た」そんな気持ちだった。恋愛も演奏も全てがバラ色に染まって行った。

 

運が掛け算されていたと思える要素も10%くらいはあっただろう。フレッチャー教授があの日練習室を訪れた偶然訪れたこと。バンドに入ってから一番手のドラマー、タナ―の楽譜をなくしたことで急きょ発表会で主演奏に抜てきされたこと。

 

でも90%の成功の理由はもともと持っていた才能が開花し始めただけだったのだ。フレッチャーに目をかけられた時から自分の自分への見方が180℃変わった。

 

音楽だけじゃなく恋愛にも積極的になれた。ずっと気になっていたニコルを食事に誘った。断られるという未来予測が微塵もないこの自信。もちろんOKしてもらえた。

 

何度か食事して話をした。音楽とは別のかけがえのない至極の時間。こんな幸せが簡単に手に入る所にあったのは意外なことだった。

 

 

タナ―が語る(転)

俺はシェイファー音楽学院を去ろうとしている。やりきったというか、もう沢山というのが本音だ。

 

これは絶対知ってもらいたいがドラムの才能がなくてリタイアしたとかじゃない。フレッチャー教授率いる最高峰のバンドで一定期間、ドラマーとして主奏者を務めていたのだから。

 

欠けていたのは他の音楽家としての才能だ。それはフレッチャー教授やアンドリューが潜在的に持っている狂気に近い執着だ。

 

彼らのやり取りにいつからか距離を置きたいと思うようになっていた。その気持ちが段々大きくなって音楽を離れて医学の道に進もうと心が動き始めた。

 

自分はアンドリューの狂気に火を焚きつけるには足らない存在だったのだろう。コノリーという下級クラスからのライバルを教授は投入してきた。

 

アンドリューの狂気は教授の計画通り引火した。3人で主奏者の座を競ったレッスンの日は自分も完全に巻き込まれた。

 

朝の2時まで交代でドラムを叩かされフレッチャーのジャッジを受け続けた。自分はあの日完全にやる気スイッチを手放した気がする。

 

逆にアンドリューは選ばれたことでさらに暴走し完全な狂気へ向かい始めたに違いない。目つきは犯罪者のように鋭くなって手はいつも傷だらけだった。

 

どれだけ体をいためつけ練習していたのか。自分は記憶に障害もあるし「ああはなりたくない」そう思うようになっていた。

 

主奏者を務めることになった演奏会に向かう途中交通事故に遭ってしまう。それでも血だらけでドラムをたたく姿は今でも思い出すとぞっとしてくる。

 

「お前は終わりだ」と決定的な一言を言われて狂気は頂点を極めフレッチャーへの暴力に向かう。彼は退学になり自分と同じくシェイファー音楽学院を去ることになった。

 

大学生活を搾取されたのは俺も同じだ。でも自分もアンドリューも命を残せたことでリベンジの機会が残されたと言える。

 

フレッチャーの焚き付けでうつ病から自殺に追い込まれたショーン・ケイシーと比べれば自分は音楽を捨てて良かったと心から思える。アンドリューもそれは同じだろう。

ニコルが語る(結)

アンドリューの話だと教授はもっと若い人かと思っていたから剥げ頭にまず驚いた。ドラムの前で不自然に立ち止まり何かアンドリューに声をかけた。アンドリューの目が泳いでいる。一体どうしたのか?私の心臓もドキドキしてきた。

 

一方的に振られた相手のコンサートに来ている自分が悲しい。ましてやこんなに動揺しているとは全く無意味だ。彼との出会いの走馬灯が頭の中をグルグル回り始めていた。

 

アンドリューとの出会いはバイト先の映画館だった。いつもお父さんと来ていたので存在は認識していたけど、まさか食事に誘われるとは驚きだった。

 

会って話すたびに恋愛の階段を上っているつもりだった。ところが突然別れの判決を一方的に言い渡された。無機物のドラムに敗北するしかなかった。

 

階段を上っていたのは自分だけだったのか?あるいは2人で上ってはいたけど、少し前を歩いていた彼が突然振り返って突き落とされたのか?そうだとしたらそれは相当急な階段だ。地面に叩きつけられ死ぬほど耐え難い痛みを負うことになった。

 

そんなダメージをやっと時間が癒してくれようとしていたところで彼から突然電話があった。出演するジャズフェスに誘ってきた。

 

恨みこそなかったが、転落して全身を打ちつけたダメージはそう簡単に消せるものではなかった。

 

「彼氏と約束しているから行けるか分からない。彼はジャズは好きじゃないから」

口からこぼれ出ていた。彼の言葉が出るまでに心地いい間があった。心がスカっとした。

 

その後フェスの前日ま何度も何度もこのスカっとした瞬間を思い出して快感を味わっていた。そして「もっともっと」という心の声を抑えられなくなった。

 

ついに初めてアンドリューがドラムを叩く姿を見ることになった。全身から汗がにじみ出てきた。隣の弟の存在が恥ずかしく思えてきた。

 

「何でこんなことまでして」

「今目が合った!」心臓がドキドキした。

 

彼の目が泳いでいる。私に気づいて動揺しているようだ。演奏が始まった。ジャズは分からないけど、何となくおかしい。

 

一曲目が終わり会場からはまばらな拍手が起こっていた。

好きな音楽はヘビメタ一色の弟は隣でジャズの観客の空気を読みながら手を叩いていた。

 

暫く舞台上で教授が背を向けアンドリューと何か話している。また彼と目があった。動揺が伝わってきた。

 

「私は何をやってんだ、弟まで連れ出して」

見ていられなくなって、目を伏せている間にアンドリューは舞台からいなくなっていた。

「これが私が望んでいたことだったのか?」

「行こう」と弟の手を取って立ち上がった瞬間、再びアンドリューが現れた。

今度は目力が半端ない!

「ごめんなさい!これは弟なの」

アンドリューのドラムから演奏が始まった。

存在感は完全に教授を超えていた。彼の演奏がバンドをリードしている。

ドラムソロは完全に会場を一体化していた。

弟は立ち上がって体を震わせ聴き入っている。

演奏は音楽のジャンルを完全に超えていた。

純粋に演奏に感動して「スカッとした!」

「誰かぁ~」

「“これは弟です”っていうプラカードを持ってきて」

と心の声が叫んでいた。

 

 

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